小説書きの嘆きを訊く「文派の個独」

第六回 GreenBeetle氏

「文派の個独」第六回

 初めまして!
 思いもかけないご指名に、つい挙動不審に陥ってしまいそうになっております、「白のかはたれ、黒のたそかれ」という創作サイトの管理人の GreenBeetle と申します。この度、「文派の個独」の六回目を書かせていただく事になりました。よろしくお願いいたします。
 
 なにぶん私は、サイト始めて一年ちょい、ブログ時代を含めてもやっと二年という若輩者。加えて言えば、パソに向かう時間の大部分を執筆とサイト管理に使ってしまっているサイト引き篭もり。こんな奴がこのような公の場にのこのこ出てきてしまって良いのだろうか……。
 と、二日ほど悩んだのですが、これはこれで、「世間知らずで自己顕示欲の強い未熟者の中途半端な小説書き」という立派な標本になるかも! と超ポジティブシンキングで、このエッセイに取り掛かる事にします。よし、テンション上げて行こう!

世間知らず故の嘆き

 そもそも二年前の私は、インターネットを日常生活での調べ物などでしか使っていませんでした。末っ子気質、と言ってしまうと、世間の「しっかりした末っ子」の皆さんの反発を招きそうですが、とにかく私は下っ端体質の権化でして、姉貴が「この本面白いよ」と言えば読み、兄貴が「このアニメおもろいぞ」と言えば見て、といった風に限りなく他人に頼りきった受身な人生を送っていたため、自分からインターネットという莫大な情報量の海に飛び込んでいく、なんて発想自体が無かったのです。
 それに、実は何故か「創作系サイト=イラストサイト」という妙な思い込みがあって、「ネット小説」という概念が存在しなかったんです。おっかしいなあ、少し考えれば気が付きそうなものなのに……。本当に謎だ……。
 
 最初のきっかけは、とても単純なものでした。「エロが読みたい」という実に解りやすくストレートな動機から、全ては始まったのです。
 きっと皆さんも通ってきた道に違いない、と信じているので、ぶっちゃけて書いてしまいますけど、こう、ちょっと、ほら、なんと言うか、ムラムラっと盛り上がりたい気分の時ってあるじゃないですか。で、そんな小説を読みたいなあ、と思いつつも、本屋でそういった本を手に取る勇気が無い。手に取れてもレジまで持って行けない。お店の人にバーコードをピッとして貰うなんて、絶対無理!
 ネット通販したとしても、昼間に家にいる家族がそれを受け取るわけじゃないですか。「それ何?」とか聞かれたらどうしよう、いや、それよりも、勝手に開けかねないよ、ウチの親!
 
 というわけで、そこで漸く「インターネットに載ってないかな」と思い至ったわけです。
 恐る恐るネットで検索してみたものの、探し方がヘタ過ぎて、男性向けの(申し遅れましたが、私は女です)実に「実用的」な小説?体験談?いやちょっと、イキナリそんなダークな展開されても、心の準備が……! みたいなテキストしか見つけ出す事が出来ず。って、別に、ディープでハードなエロにケチをつけるつもりは全然無くって、単に私の萌えに合致しなかった、というだけなんですけど。念のため。
 とにかく。
 めくるめくドラマの果てにナニだとか、苦難を乗り越えて盛り上がってナニだとか、同じナニするにしても女性側に優しいナニだとか、でもちょっとイジワルなカンジのナニがイイよなーとか、自分好みな十八禁小説って無いのだろうか、そう誤解したまま、ついに最終手段に出てしまったわけです。
 ……いっそ自分で書いてやれ、と。

自己顕示欲に嘆き

 溢れる妄想空想を文章として吐き出すに至って、小心者な私はまだ躊躇っていました。
 パソコン内にファイルを置けば、家族の誰かに見られるかもしれない。
 しかし、頭の中では既に妄想物語が具体的な形になりつつあり、これらを書き出さずにいる事など、もはや不可能!(言い切った)
 そんな私が目をつけたのが、十八禁可のレンタルブログです。自分の領域外に匿名で文書を保存する事が出来る。しかも、テキストを打ち込むだけで美麗なページが出来上がるなんて、当時HTMLなどの詳しい知識が皆無だった自分には、まさしく夢のよう。
 そうして、ここに「GreenBeetle」というネット空間にだけ存在するペルソナが、ひっそりと誕生したのです。
 
 さて、こうやって非公開のブログでちまちまと萌えを吐き出し始めた私ですが、ご多分に漏れず、孤独に耐えられなくなってきました。誰かと萌えを共有したいという欲求もですが、なにより自己顕示欲が強いんでしょうね。どうしても誰かに読んでもらいたい。
 実は私、以前から趣味で小説(もどき)を細々と書いていて、友人と作品を見せ合ったり感想を言い合ったりしていました。そんな恵まれた環境から一転しての孤独な壁打ち作業、余計に寂しさが身にしみます。が、妄想全開なエロを詰め込んだ物語、今回ばかりはとてもリアル知人には読ませられない。でもでも、やはり書いた以上は他人の反応が欲しい。
 
 ……で、当初は書庫のつもりだったブログを、思い切って公開し始めました。
 ブログランキングにも参加してみました。
 ランキングで見つけたサイトを経由して、創作系検索エンジンというものの存在も知りました。
 
 そうして、見つけました。所謂同ジャンル――女性読者を意識した、男女カップルがモチーフの十八禁小説――のサイトを……幾つも。

未熟者だと嘆き

 一体どこに隠れていたんだろう、というよりも、単に自分が全然探し出せていなかっただけなんですが、私が自給自足を選んでまで切望していた「萌え」な物語が、そこには当たり前のように沢山存在していました。
 そうか! 「十八禁」で「恋愛小説」と探さなければならなかったのか! 「恋愛小説」だったら確かに、イキナリのハードな展開に度肝を抜かれる事も少ないってわけだ! ○○だったり××だったり□□だったりする可能性も少なそうだし!(わがまま)
 ……とまあ、浮かれて色々と読み漁っては萌え萌えしたり、時には新しい自分の萌えポインツを発見したり、すっかり読者目線でネットライフを楽しみながら……、連載途中の自分の物語に改めて向き合って……
 
 打ちのめされてしまいました……。
 
 書き始めたそもそもの動機が動機ですから、「今更自分が書かなくても良かったんじゃないか?」と。
 文章表現が、描写が、構成が、物語もそして勿論エロも(笑)、上手い。奥深い。素晴らしい。そんなサイトが幾つもあるんですから、すっかり自信喪失です。それらに比べて自分がヘタだという事は解るのに、改善すべきポイントが全然解らない、そんな中途半端に肥えている我が目がうらめしい。
 創作活動なんて、比較したり競ったりするものじゃない、とアタマでは解っていながら、理想とかけ離れたところで蠢く自分が情けなくて。でも、一番やりきれなかったのは、どうすればそこに近づく事が出来るのかがさっぱり解らないというところでした。
 
 ブログを公開しはじめて、そろそろ七ヶ月が過ぎようという時でした。ありがたい事にポツポツと応援のコメントをいただけるようになりました。
 とりあえずは、連載している物語を完結させる事だ。この物語は、自分にしか書く事が出来ない筈なのだから。
 読んでくださる人がいるという事を胸に、落ち込んだり浮上したりを繰り返しながら、がむしゃらに書き続けていったのです。

中途半端さを嘆き

 とまあ、おそらくは永遠に解決出来ないであろう物書きとしての苦悩については、脇に置いておくことにして、新たに発生した「サイト管理人」としての煩悶についても記すことにします。
 サイトの体裁もなんとか整い、連載も軌道に乗ったところで、いくつかの検索サイトに登録しようとして、はた、と気が付きました。
 
 ウチのサイト、一体どういうジャンルなのだろう……?
 
 とりあえず、十八禁を謳っている以上、アダルトサイトなのは間違いないわけです。が、問題なのはその先です。
 まず、「女性向け」とか「男性向け」とかいうやつ。女性の自分が自分のために書き始めたものなのだから「女性向け」でいいやん、と思っていたら、「女性向け=ボーイズラブ」なんて図式も耳にして、頭が混乱してしまいました。ええ? それじゃ、ウチは「男性向け」なわけ? でも、男の人の萌えポインツなんてよく解らないけど、それでいいのか?(多分良くない)
 悩みはそれだけではありません。性描写に力を入れて書いているからには「官能小説」だろうと思いつつ、でも、濡れ場が全体の分量の1~3割しかないとか、60KB書いてもまだ男女が手すら握ってないとか、この状態で「官能小説」と名乗るのは「官能小説」に失礼なんじゃないだろうか、と。かと言って「大人向け恋愛小説」なんてぼかして言うには、絶対に描写が濃厚過ぎるだろうし……。
 そもそも私が書いているのが「恋愛小説」なのか、という部分も激しく悩ましいところだったりします。エロが書きたい、それも和姦がいい、となると当然の如く恋愛関係にある男女を描く事になり、ただヤってるだけじゃ物足りない、となるとその二人の恋愛感情や諸々について描写する事になるわけですから、「恋愛小説」に違いないとは思うのですが、いかんせん雑音が多い。主人公カップルにまつわる話よりも、反乱とか陰謀とかのエピソードにページを割いてみたり、これでもかと変人揃いの学生生活を描写してみたり、つうか、暗号とか謎とか、およそ恋愛小説らしからぬ単語が乱舞している恋愛小説ってどうよ。
 でも、「ファンタジー」「学園モノ」のカテゴリには入れない。何故なら、性描写を省けない(省きたくない)から。って、今これを書いていて思いついたけれど、「十八禁ファンタジー」とか「十八禁学園モノ」とか名乗るのが一番しっくり来るような気がします。でも、そんなにジャンルを細分化しても意味が無いような……。
 
 サーチや同盟に登録する時もそうですが、気に入ったサイトにリンクしようとした時も、やっぱり同じように自分の立ち位置に悩みます。
 リンクページにお気に入りサイトをぺたぺた貼り付けて、オンラインブックマーク代わりに使いたいところなんですけれど、十八禁サイトからのリンクを喜ばない方もいらっしゃるだろうと思えば、どうしても慎重にならざるを得ません。同じジャンルのサイトならばリンクしても大丈夫かな、と思うものの、その「同じジャンル」が一体どんなジャンルなのかはっきりしない事には、もういかんともし難いわけでして。
 年齢制限のある恋愛小説サイトなら、一応大枠で同ジャンルと言えるかも、とリンクしようとしたら、「アダルトサイトからのリンクお断り」と注意書きがあったりして、地味に凹む事もしばしば。本当に、ウチってばなんて中途半端なサイトなんだろう。

そして開き直る

 ……って、こうやって改めて色々と文字にしてみて、なんだかちょっとスッキリしましたよ。読者そっちのけで、書き手が癒されててどうするんだ、自分。
 
 色々悩みつつも、それでも創作を止めないのは、ほとばしる妄想情熱のなせる業です。頭の中に浮かび上がった物語が形になる、という事のなんとキモチの良い事か。
 そして、やっぱり、何はさておき、読んでくださった方の反応が私を創作に駆り立てるのです。感想は勿論、ちょっとした一言や拍手のポチ。「そうかー! 萌えたのかー!」とディスプレイに向かって喜びのあまり本気で叫びそうになってしまいます。
 
 それに、自分の萌えを他人に理解して貰えるってのも、ちょっとした快感です。「うおーっ! 同士っ!」とディスプレイに向かって(以下略
* * *
 悩んだり、詰まったり、沈み込んだり、急上昇したかと思えば今度は錐揉み状態でフリーフォールしてみたり。脱・ヘタレは、あまりにも遠い道のりですが(って言うか、果たしてそこに到達出来る日が来るのかビミョーですが)、私にしか書けない「萌え」がそこにある限り、自分のために、自分が書きたいものを、私は書き続けるでしょう。
 
 そうやって綴った物語が、ほんの僅かでも他の人を楽しませる事が出来るというのなら、これからもちまちまと読者の皆さんに萌えをお裾分けしていきたいと思っている次第です。
2008.5.20 GreenBeetle
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